うっかり人の足を踏んで「ごめんなさい」と謝るのは当たり前。踏まれた方も「いいえ、私がうっかりしていたものですから」と謝る。足を踏んで申し訳ないと恐縮する相手の失敗を責めずに「私も注意が足りませんでした」と謝る。踏んだ人の心の負担は軽くなり、お互いが和む。これは江戸しぐさの一つ【うかつあやまり】です。

　狭い路上で対向者とすれちがう時、道路中央側の肩を引く【肩引き】、お互いに傘を道路の外側にかしげ、相手にしずくがかからないようにする【傘かしげ】などは、自分だけでなく相手も同じ行動をとらなくては成立しません。

　近所の人と出会った時、「おはようございます」と挨拶した後に「いい天気ですね」などと続ける【世辞】は、会話や人間関係を円滑に進める役割をしました。江戸では世辞が言えて一人前とされ、９歳までに世辞が言えるように教育したとされます。

　他にも江戸しぐさはたくさん紹介されていますが、根底にあるものは【思いやりとやさしさ】です。言葉や文化が違う多様な人々が集まり行き交う江戸の町で、どうしたら争いのない平和な世界が築けるか、町人のトップの人たちが考え出し、それを易しい言葉で表現し率先して実行していき、その美しく粋（いき）な振る舞いを庶民がまねてみることで広まっていったとも言われます。

　まさに憧れる存在や文化があったのでしょう。相手も気持ち良く、自分も気持ち良い、そして、互いの利益になる江戸しぐさの精神に学ぶべきことが多々あると感じます。

　人々は現代のような科学技術の進んだ文明社会でない頃も、人や物や出来事、様々な状況と関わる中で、蓄えてきた知識を基にいかに対応していこうか判断し、よりよい行動を求めてきました。江戸しぐさのように、小さな事を通して多くの人と心を通わせる術や思いやりに満ちた共同体を日常生活から築いて来ました。

　江戸しぐさの多くから、時代を超えて自分と相手との関わりや互いの心を大切にした【人としての生き方の知恵】を教えられます。そして共生の知恵に学び大事にしていかなければならないと思います。

　越中生の皆さん、これからも日々の体験を通じて豊かな人間関係、絆づくりの学びを積み重ねていきましょう。